問屋である僕らにも、何か新しいことはできる

呉服問屋から生まれた、ガラスのうつわ

江村商店 専務取締役 江村和博さん

つややかなガラスに透ける、美しい文様、金銀の静けさ。その優美な佇まいのガラスのうつわは、着物から生まれました。手がけるのは、大正6(1918)年創業の呉服問屋「江村商店」です。生糸や白生地に始まり、現在は京呉服、結城紬、大島紬、越後織物など、幅広く扱う「江村商店」。これまでにない形のうつわが生まれたきっかけは、着物にいかされた技術を次の世代に残したいという思いでした。

「製造メーカーではない、問屋である僕らでも、何か新しいことができるのではないか。そんな根拠のない自信があったんです(笑)」と語る、専務取締役の江村和博さん。前職はパティシエという江村さんのアイデアで、お菓子をはじめ、料理を盛りつけるガラスのお皿をつくることになったそうです。

透きとおるガラスに淡く浮かぶ、織物の美

最初につくったのは、上質な白生地に型染友禅で染め出した反物を挟んだガラス皿。「薄い生地のために透明感があり、生地が中に入っているというより、柄だけが浮かんでいるような印象に。思いの外、いい感じになって。あまりにもイメージ通りで、こんなにも簡単にできてしまってよいのかなと思うくらいでした(笑)」。

そして誕生したのが「友禅のうつわ」。金銀がさりげなく光るシンプルなガラス皿は、どんな料理もよく映えます。松葉柄などは抽象画のような雰囲気もあり「主張するのではなく、さらりと織物の魅力を伝えたい」という江村さんの思いに沿うものになりました。

一方、ひときわ華やかなのは、西陣織を綴じこめた「西陣のうつわ」。日本古来の文様が描かれる色鮮やかなうつわは、お祝い事の贈答品にも選ばれます。

日々の生活に、伝統を感じられるものを

ガラスのうつわは上品な質感でありながら、その役目は飾り皿ではありません。「使ってもらうことが前提。もちろん飾ってもよいのですが、伝統を感じられるものをぜひ日々の生活に取り入れてもらいたいたくて」と江村さん。皿の裏側は、樹脂でコーティング。滑り止めになり、スタッキングもできるなど、実用性にも優れた仕様になっています。

このとんでもない技術を多くの人に伝えたい

入社してまだ間もない頃、「何をつくっていこうか」と考えあぐねた江村さん。「これまでのように着物が売れる時代ではない。現代の生活に合ったものが何かできないだろうか」。そこには、着物にかかわる職人への敬愛の念が込められます。

型紙の細やかな文様をほれぼれと眺めながら「染色に用いられるこの『伊勢型紙』は、職人が手作業で一つひとつの文様を彫っています。これって、とんでもない技術だと思うんですよ。また、思い通りの色に染める染色の技術もやっぱりすごい。日本人って繊細だなとつくづく思いますね」。その思いは、暮らしの中から遠のいた着物を、身近に親しみやすい日用の品へと一新させました。

「京都の企業がどんどん世界を向いて、面白いことをしている。自分たちはまだまだこれから。小さな商いですが、日本のすばらしい技術を、国内外を問わず、たくさんの人に伝えていきたい。もともと根拠のない自信はありましたが、実際に商品をつくり始めたときから手応えも感じています(笑)」。