箔の魅力を散りばめた、現代になじむ扇をつくる

箔の魅力を散りばめた、現代になじむ扇をつくる

金彩扇子作家 米原康人さん × 大西京扇堂 大西将太社長

つくり手が、箔のよさをちゃんと発信していこう

米原・金彩扇子作家と言っていますが、実はそういうつもりはあんまりなくて(笑)。親戚の箔押加工所で仕事を始めて、作家としての活動はその延長線上という感じですね。

大西・京扇子は分業制で、87回職人さんの手を通るといわれます。例えば、紙をつくる人がいて、その次に「加飾」といって紙に箔を押す人がいる。「上絵」ではシルクスクリーンや手描きで絵を入れ、今度は折り師が骨に合う形に紙を折る。最後の「附(つ)け」でようやく仕上がります。細分化すると、それくらいたくさんの工程がある。その一つが箔押。箔押だけも、さまざまな貼り方があって、多様なデザインがつくれます。もともと米原君のおじさんが箔押をされていて、わたしのところの仕事もしてもらっていたんですよね。お仕事を一緒にしたり、扇子の組合では青年部として一緒に活動したり、米原君とはいろいろと繋がりがありますね。

米原・うちは無地押といって、絵が入る前の下地ばかりをやっていたんですよ。何百とか仕事をして、次の工程に持っていってもらう。だから完成形は基本的にあまり知らないんです。箔の仕事だけをしていると、需要って全然分からない。僕が最初にそれを感じたのは、リーマン・ショックがあって、パタッと仕事がなくなったとき。つくっている人が、そのよさをちゃんと自分で伝えていかないと、この先なくなっていく仕事だと思ったんです。受け継いだ技術を次に伝えるためにも、自分が魅力的に感じる部分を商品にしっかりと盛り込んで、世の中に発信していこうと、今の活動を始めました。マーケットのことは分からないので、商品を売ってくれる方と協力し合ってやっている感じですね。

箔が伝える、はかなさ。シンプルながら趣のある「枯淡」

大西・米原君が個人で活動をしていると知って、ぜひうちのオリジナルをつくってほしいとお願いしました。そして生まれたのが「枯淡」という扇子。名前も米原君が考えてくれて。

米原・枯淡は「あっさりとしていながらも味わい深さを感じる」というような意味ですけど、基本は「箔の仕事で伝えていることは何なのか」と考えるところからデザインしています。僕もまだ、それをしっかりと分かっているわけではないですけど。例えば、金や箔と聞いたとき、ぱっと思い浮かぶのは、豪華絢爛(けんらん)な感じや、仏教の神々しい感じ。けれど、うちの仕事の場合は、砂子など細かいものを使って、光のきらびやかな部分ではなく、その裏側にある、はかなさというのを意識して意匠を考えます。僕らの仕事は、能や茶道とも関係が深いので、それらが伝えている日本人の精神性みたいなところも入れ込みたいと思っていて。もののあはれや幽玄、詫び寂びといった、日本に伝わる美意識を表現しつつ、しかも、それが古くなく見えるように、というのを大事にしていますね。

大西・箔を使った商品というと飾りが多くなりがちですけど、実用で持つものは派手過ぎると、お客さんにあまり好まれない。「枯淡」は昔からの技法を使いつつ、ちょっと控えめなデザインにすることで、ファッション的にも持ちやすくなっています。女性用は白に箔が入ることで涼しげなイメージ。男性用は白い紙に黒色を刷毛で引くところから米原君がやっているんですよね。手仕事なので一点一点、微妙に表情が異なるところも魅力です。「カッコイイ」と、お客さんの評判はすごくいいですよ。

伝統技術をつなぐために。職人の思いも届けていく

大西・今、職人さんが高齢化していて、お仕事を辞められる方や、後継ぎがいなくて廃業される方が増えています。だからこそ米原君みたいな若い職人は貴重な存在だと感じていて。今はなんとか技術をつなぎとめていますが、数年後は分からない。そんな状況まできていると感じます。

米原・若い人、誰もやらないですよね(笑)。扇子だけにフォーカスを合わせると難しいですけど、例えば、同じ技術を使って、別の商材、現代の生活に必要とされているものに応用していくなど、伝統工芸の技術を仕事として残せるように、ということは常に考えていますね。

つくるほうにも確かにプラスになること

大西・京扇子は伝統工芸品ではあるけど、昔は日常として使われていたもの。今は外国製の安いものが売られていて、僕らがつくっているものは高価なものになってきています。経済的な理由から安いものの方が多く流通するなか、本当にいいものをつくって、職人さんに仕事を回さないと、という思いが強いですね。そうでないと、技術が保たれていかないし、商売も厳しくなってくる。そんな中で、職人さんの思いが伝わるように宣伝していくというのは、僕らの大切な仕事だと思っています。そういう意味で、米原君のように職人さんが作家として思いをのせて商品をつくってくれるというのは、お客さんにも伝わりやすく、大変ありがたいなと思っていますね。

米原・職人というのは外に出ていく仕事ではないですけど、個人として活動を始めたことで、つくっているだけでは分からないことを知ることができたり、いろいろな声を聞けたり、いい経験ができています。それはつくるほうにも確かにプラスになっていると思いますね。